川口本町「ほうげつ堂」|大正15年創業、3代続く町のパン屋さんが守り続けるもの

埼玉県川口市本町、キャメリアプラザ1階に小さなベーカリーがあります。
その名は「ほうげつ堂」。

通りすがりに気づく方もいれば、地元の常連さんに教えてもらって初めて訪れる方もいる、いわゆる“知る人ぞ知る”お店です。でも一度その扉を開けてしまうと、気づけば何度も足を運んでいる——そんな不思議な引力を持ったベーカリーです。

Googleマップのクチコミ評価は4.4(50件以上)。数字だけ見ても地域からの信頼の厚さが伝わってきますが、その背景にある物語を知ると、この評価がいかに必然であるかがわかります。

キャメリアプラザの1階に佇む、地域の顔なじみ

お店があるのは、川口市本町4丁目のキャメリアプラザ1階。大通りに面した派手な立地ではありませんが、それがかえってこのお店の雰囲気によく似合っています。

看板を見て「あれ、パン屋さんだ」と気づいた方が自然と吸い寄せられる、そんな佇まいです。

初めて訪れる方は少し迷うかもしれませんが、一度場所を覚えてしまえばもう迷いません。「あそこのパン屋さん」として、頭の中にしっかりと住所が刻まれるお店です。

大正15年創業——川口の歴史と一緒に歩んできたお店

店内に入ると、焼きたてのパンのやさしい香りが出迎えてくれます。

「大正15年から続いているんですよ」——店主のその一言に、思わず背筋が伸びました。大正15年とは、西暦1926年。今からおよそ100年前のことです。

川口にJR京浜東北線の前身となる電車が開通したのが1914年ですから、その約12年後に創業したことになります。駅ができて少しずつ町が動き始めた頃、ほうげつ堂はこの地に産声を上げました。

当時の川口は鋳物産業が盛んな工場の町として知られており、職人たちが汗を流し、活気に満ちていた時代。そんな川口の空気の中で、初代がお店を開いたのがほうげつ堂の始まりです。

もともとは和菓子・ケーキ・パンの3本立てで商いをしていたそうです。先代まで3種類を扱い、現在のキャメリアプラザに入居してからパン1本に絞った。時代の変化に合わせながらも、“この場所で続ける”という意志だけはぶれなかった。現在の店主は3代目。100年近い歴史のバトンを受け取り、今日も毎朝パンを焼いています。

「ずっと住んでいるから、好きなんです」——この町の好きなところを聞くと、店主はそう答えてくれました。理由を説明するでも、特別な魅力を語るでもなく、ただ「ずっといるから」。その言葉の短さに、逆に深いものを感じました。

生まれ育ち、商いを続け、暮らしてきた場所への静かな愛着が、じんわりと伝わってきます。

1番人気は食パンとレーズンブレッド。毎日の食卓に寄り添うパンたち

ほうげつ堂で1番人気のパンはレーズンブレッド。そしてよく売れるのが食パンだそうです。

どちらも派手さはないけれど、毎日食べても飽きない、暮らしに寄り添う定番品です。

華やかな見た目のパンや、流行りのフレーバーを追いかけるわけでもない。
それでも長年にわたって地域の人々に選ばれ続けているのは、「安心できる味」があるからではないでしょうか。朝ごはんのトーストに、ちょっとしたおやつに——気づけばほうげつ堂のパンが日常の1部になっている、そんなお店です。

価格帯は1人あたり1,000円以内。毎日気軽に立ち寄れるのも、長く愛され続ける理由の1つです。

シンプルだから飽きない。「いつも同じ味」を守るパン作りの哲学

パン作りで大切にしていることを聞くと、店主はこう答えてくれました。

「安全で、いつも同じ味、同じパン」

一見シンプルに聞こえますが、これがどれほど難しいことか。素材の状態は毎日変わります。気温も湿度も季節も違う。それでも「いつも同じ」を実現し続けることは、長年の経験と技術と、何より強い意志がなければできません。

トレンドを追うわけでも、新商品で話題を作るわけでもない。毎日来てくれるお客さんが「ああ、いつものあの味だ」と安心できるパンを焼き続けること。それが3代にわたってこの町で愛されてきた理由であり、ほうげつ堂の誇りなのだと感じました。

テイクアウトはもちろん、イートインや宅配にも対応しているので、その日の都合に合わせて利用できるのもうれしいポイントです。

「いつもの方がまた来てくれた」——地域に支えられる、静かな誇り

「お年寄りのお客さんが多いんですよ」と店主は話してくれました。長年通い続けてくれる常連さんたちが、このお店の日常を作っています。

足腰が弱くなっても、それでもほうげつ堂のパンが食べたくて買いに来てくれるお客さんがいる。そのことを店主はとても大切に思っていることが、言葉の節々から伝わってきました。

「いつもの方がいらしてくれて、おいしいと言ってくれるのがうれしい」

華やかなエピソードではありません。でも、これこそが地域に根ざしたお店の本質だと思います。「いつもの人がまた来てくれた」という、静かで確かな喜び。それを100年近く積み重ねてきたのが、ほうげつ堂なのです。

川口本町を訪れた際には、ぜひキャメリアプラザ1階のほうげつ堂に立ち寄ってみてください。レーズンブレッドでも、食パンでも、その1口にきっと”続いてきた理由”が詰まっています。

ほうげつ堂
住所:埼玉県川口市本町4丁目5-26 キャメリアプラザ1階
アクセス: JR京浜東北線川口駅東口から徒歩3分
TEL:048-223-1315
営業時間:10:00-19:00
定休日:月曜日

※記載情報は取材当時のものです。変更している場合もありますので、ご利用前に公式サイト等でご確認ください。
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よりみち案内
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川口市通勤18年、街の裏路地まで歩く案内人。宝探し気分で穴場の店を見つけ、楽しく紹介できるよう頑張ります。